老後2000万円問題、年金シミュレーション、積立NISA。数字は積み上がるのに、心がすっきりしない人へ。
老後のお金の話から始めると、なぜ疲れるのか
書店に並ぶ老後本の多くは、まず「いくら必要か」から始まる。生活費、医療費、住居費を足し算して、足りない分を埋める方法を考える。
この順番自体は間違っていない。ただ、数字だけを先に出されると、多くの人はそこで気持ちが止まってしまう。
知人の女性は50代で老後資金のシミュレーションをしてみて、数字を見た瞬間に気が重くなったと話していた。足りないという結果そのものより、何のために貯めているのかが分からなくなったという。
ある夫婦は家計簿アプリで老後資金を細かく記録していたが、数字が合っていくほど会話が減っていったという。正しい計算をしているのに、気持ちはすり減っていった。
お金は手段であって目的ではない。けれど目的が曖昧なまま手段の計算だけを進めると、不安だけが膨らんでいく。
不安の正体は、情報が足りないことではなく、向かう先が見えないことにある場合が多い。数字をいくら積み上げても、その先に何があるか分からなければ安心にはつながらない。
老後のお金の話が疲れるのは、金額の大きさのせいだけではない。その前にあるべき「どう過ごしたいか」が抜け落ちているからだ。
お金より先に「どう生きたいか」が決まっていないこと
定年後の時間は、ざっと見積もっても数万時間ある。その時間をどう使うかを決めないまま、資金計画だけを先に固める人は多い。
60代で退職した男性の例がある。退職金と年金の計画は完璧だったが、半年後に「やることがない」と口にするようになった。
子育てが一段落した50代の女性は、時間にゆとりができた途端、何をすればいいか分からなくなったと話していた。自由な時間は増えたのに、満たされた感覚はなかなか戻らなかった。
お金の心配はなくなったのに、満たされない。これは珍しい話ではなく、むしろよくあるパターンだ。
時間とお金という条件が整っても、向かう先が決まっていなければ、人は立ち止まってしまう。条件を整える前に、まず方向を描いておく必要がある。
人は何かに向かって力を使っているときに、生きている実感を持つ。お金があっても、その力を使う先がなければ、時間は余るだけになる。
老後の設計図を描くなら、最初に引くべき線は「収支」ではなく「何に力が湧くか」という線なのかもしれない。
LifeFlowではこれをコアと呼ぶ。生まれ持った動力源のことで、性格とは別に、何に触れると力が自然に湧くかを示すものだ。
コア(動力源)を知らないまま老後を考える怖さ
コアには6つの方向がある。愛・楽・個・智・徳・才、それぞれ呼び方は違っても、人を動かす源は一人ひとり違う。
例えば人とのつながりに力が湧くタイプの人が、定年後に一人で過ごす時間ばかり増やしてしまうと、お金があっても満たされにくい。
逆に、一人で考える時間に力が湧くタイプの人が、地域の集まりに無理に顔を出し続けると、疲れだけが溜まっていく。
退職後に陶芸教室へ通い始めた男性は、半年で足が遠のいてしまった。手を動かすこと自体は嫌いではなかったが、彼の力が湧くのは物を作ることより、人に教えることだったからだ。
これは性格の良し悪しではなく、動力源の違いだ。知らないまま老後の過ごし方を決めると、せっかくの時間と労力が噛み合わない方向に使われてしまう。
コアは生まれ持ったもので、年齢を重ねても変わらない。だからこそ、早いうちに知っておくほど、遠回りをせずに済む。老後になって気づいても、決して遅くはない。
だからこそ、資金計画の前に「自分の動力源は何か」を確かめておく価値がある。これは一生変わらないものなので、一度知れば老後に限らず役に立つ。
老後の不安の正体は、お金の不足より先に「何に向かって生きるか」の空白であることが多い。
フィールドとコンパスで見る「老後の役割」
コアが「なぜ動くか」なら、その力をどう発揮するかの方向をフィールドと呼ぶ。革新・共鳴・継続・設計の4つがあり、これは経験の中で育っていく。
さらに、その力をどんな役割で出すかを見るのがコンパスだ。創造者、発信者、拡大者、育成者、支援者、構成者、管理者、構築者の8つがある。
定年後に地域活動を始める人は多いが、同じ「地域活動」でも、人をまとめる役割が合う人もいれば、裏方で支える役割の方が力が出る人もいる。
あるボランティア団体では、行事を企画する人と、裏で準備を支える人がはっきり分かれていた。前に立つ役割が苦手でも、支える役割では生き生きと動く人は多い。
ある男性は退職後、町内会の会長を引き受けたが、半年で疲れ果ててしまった。話を聞くと、彼に向いていたのは前に立つ役割ではなく、仕組みを整える役割だったようだ。
フィールドは経験の中で育っていくので、同じコアを持つ人でも、積んできた経験によって合う役割は少しずつ変わっていく。老後だからといって、役割が固定されるわけではない。
コアとコンパスを掛け合わせると48通りになり、例えば「智の構築者」のような組み合わせで呼ばれる。老後の役割選びも、この噛み合わせを意識すると無理が減る。
役割が合っている場所にいると、同じ活動量でも疲れ方がまるで違う。これは老後に限らず、働き方全般にも言えることだ。
フローレベルで見る、老後の過ごし方
LifeFlowにはもう一つ、「今どう流れに乗れているか」を見るフローレベルという考え方がある。上から、フロー、解放、ループ、制約の4段階だ。
フローは自由に選んで動けている状態、解放は決めて引き受けている状態、ループは惰性で続けている状態、制約は言うだけでやらない状態を指す。
定年後にありがちなのは、何となく予定を入れて埋めるループの状態だ。忙しくしているのに、満たされた感じがしない。
手帳を予定でびっしり埋めている70代の男性がいた。会う人には充実していると話していたが、本人は夜になると妙な疲れを感じると漏らしていた。
段階は点数ではなく「乗り方」なので、やることを減らして本当にやりたいことだけに絞ると、むしろ上の段階に戻りやすくなる。
老後の過ごし方を考えるときも、予定を増やすことより、自分の動力源に合わないものを減らすことの方が効果的な場合が多い。
制約からループ、そして解放へと移っていく過程は、一直線には進まない。戻ったり止まったりしながらでも、少しずつ自分に合う乗り方に近づいていけば十分だ。
一度身についた乗り方は簡単には消えないので、今は制約やループにいても、焦る必要はない。
結論:老後の設計図は、お金より先に動力源から
ここまでの話をまとめると、老後の計画は「いくら貯めるか」の前に「何に向かって生きるか」を決める段階がある、ということだ。
その土台になるのが、生まれ持った動力源であるコアを知ることだ。これが分かれば、お金の計画も、過ごし方の計画も、ぶれにくくなる。
ある夫婦は、資金計画を立て直す前に、お互いのコアについて話し合う時間を持った。数字の話をする前に、何に力が湧くかを共有したことで、計画そのものへの納得感が増したという。
知人の女性は、自分のコアを知った後に資金計画を立て直したところ、必要な金額自体は変わらなかったが、不安の質が変わったと話していた。
何のために貯めているかが見えた状態での計算は、ただの数字の積み上げとは違う重みを持つ。
老後の設計図は、一度描いたら終わりではない。動力源を軸に置いておけば、状況が変わっても、その都度立ち戻る場所ができる。
老後のお金を考える前に、一度立ち止まって、自分が何に力が湧くのかを確かめてみる。それが、遠回りに見えて一番の近道になる。
この記事のまとめ
- 老後資金の計算だけを先に進めると、不安ばかりが膨らみやすい
- お金より先に「何に向かって生きるか」を決める段階がある
- 生まれ持った動力源であるコアを知ると、過ごし方の軸ができる
- 役割(コンパス)が合っていないと、せっかくの時間と労力が空回りする
- フローレベルを意識し、やることを減らすことで、満たされた過ごし方に近づける