上司と合わないと感じる瞬間は、誰にでもある。指示の出し方、褒め方、叱り方、そのどれもが自分の感覚とずれている気がして、毎日が少し息苦しくなる。この記事では、その違和感の正体を「相性」ではなく「動力源」の違いという視点から見つめ直してみたい。
「合わない」という感覚の正体
上司と合わないと感じるとき、多くの人はまず自分の忍耐力や性格を疑う。もっと器用に立ち回れたら、もっと素直に受け止められたらと自分を責めてしまう。だが実際には、性格の良し悪しではなく、何にエネルギーが湧くかという根っこの部分がそもそも違うだけ、ということが少なくない。
たとえば会議で新しい企画を提案したとき、ある上司は「面白いね、やってみよう」とすぐに乗ってくる。別の上司は「リスクは、根拠は」と一歩引いて確認する。どちらも間違っていないのに、提案した側は前者には気持ちよく話せて、後者には身構えてしまう。この差は能力の差ではなく、力の湧く方向の違いに近い。
これは職場だけの話ではない。友人同士でも、旅行の計画を立てるときに「とにかく行ってから決めよう」と言う人と、「先にホテルも予定も全部決めておきたい」と言う人がいる。どちらのやり方も間違いではないのに、一緒に動くと妙に疲れてしまうことがある。上司との違和感も、根っこはこれと同じ構造をしていることが多い。
LifeFlowでは、人が生まれ持って力を発揮しやすい源を「コア」と呼び、愛・楽・個・智・徳・才の6つに分けて考える。上司と自分のコアが違えば、同じ状況でも心が動くポイントが違って当然で、そこに気づくだけで「合わない」という感覚の重さが少し軽くなる。
動力源の違いが生む摩擦
たとえば徳の動力源を持つ人は、周囲との調和や信頼関係を大切にしながら物事を進めたいと感じやすい。一方で才の動力源を持つ人は、結果や成果に向かって最短距離を進みたくなる傾向がある。この二人が上司と部下になると、部下は「もっと丁寧に説明してほしい」と思い、上司は「早く結論を出してほしい」と思う、というすれ違いが起きやすい。
これはどちらが正しいという話ではなく、力の使い方の方向性が違うだけである。智の動力源を持つ人は情報や理屈で納得したいタイプが多く、楽の動力源を持つ人は空気や勢いで動きたいタイプが多い。上司が楽で部下が智だった場合、「なんとなくいい感じでいこう」という指示に部下が戸惑う、という場面もよく見られる。
職場でよくあるのは、上司が数字や計画にこだわるタイプで、部下が現場の空気や人の気持ちを優先したいタイプだったケース。上司からは「感覚で仕事をするな」と見え、部下からは「人を見ていない」と感じられてしまう。実際には両方とも仕事への熱意は同じくらい強く、ただ発揮したい方向が違うだけなのだ。
接客業の現場でも似た摩擦は起きる。才の動力源を持つ店長は「今月の数字をどう伸ばすか」にまず目が向き、徳の動力源を持つスタッフは「お客様との関係をどう深めるか」にまず目が向く。どちらも売上を伸ばしたい気持ちは同じなのに、話し合いの入り口が違うせいで、噛み合わない会話が続いてしまうことがある。この入り口の違いに気づくだけで、会話の温度は少し変わってくる。
フィールドという方向の違い
コアが動力そのものだとすれば、フィールドはその力をどう使うかという方向にあたる。LifeFlowでは、革新・共鳴・継続・設計という4つの方向で捉える。上司が革新の方向を好み、新しいやり方をどんどん試したい人であれば、継続の方向を好み、決まったやり方を丁寧に守りたい部下とは自然と歩幅が変わってくる。
たとえば毎月同じフォーマットで資料を作る部署で、上司が「もっと違う切り口で作れないか」と繰り返し提案してくる場合、継続を好む部下は「今のままで十分なのに」と疲れてしまう。逆に、上司が設計の方向を持ち、手順やルールを細かく整えたいタイプで、部下が共鳴の方向を持ち、人との対話を通じて物事を進めたいタイプだと、「もっと自由にやらせてほしい」と部下が感じることもある。
子育ての場面にも、この方向の違いはよく表れる。ある親は「新しい習い事をどんどん試してみよう」と革新の方向を大事にし、別の親は「一つのことをじっくり続けさせたい」と継続の方向を大事にする。夫婦でこの方向が違うと、子どもへの声かけがちぐはぐになり、子ども自身が戸惑ってしまうこともある。上司と部下の関係も、実はこれとよく似た構図の中で起きている。
フィールドは経験の中で育っていくものなので、今の上司と自分のずれは、永遠に固定されたものではない。今は噛み合わなくても、互いの経験が積み重なる中で、少しずつ歩み寄れる余地があるということも覚えておきたい。
具体的なすれ違いの場面を見てみる
子育てにたとえるとわかりやすいかもしれない。ある親は子どもに「まず自分でやってごらん」と挑戦させたいタイプで、別の親は「危ないから先に教えてあげよう」と守りたいタイプだ。どちらも子どもを思う気持ちは同じなのに、やり方が違うだけで、子どもは混乱してしまうことがある。上司と部下の関係にも、これと似た構図がよく見られる。
職場では、上司が「とにかく数をこなして経験を積め」と言うタイプで、部下が「一つひとつ理解してから進みたい」と考えるタイプだった場合、指導方法がかみ合わず、部下は「急かされている」と感じ、上司は「なぜ進まないのか」と苛立つ。これは能力の差ではなく、力の湧く順番が違うだけである。
また、日常の何気ないやり取りにもこの違いは表れる。上司が雑談を挟みながら関係を築きたいタイプで、部下が用件だけを効率よく伝えたいタイプだと、部下は「話が長い」と感じ、上司は「距離を感じる」と受け取ってしまう。どちらも悪気はなく、ただ心地よいと感じるコミュニケーションの形が違うだけなのだ。
新人研修の場面でも同じことが起きる。先輩が「習うより慣れろ」で仕事を渡すタイプだと、じっくり手順を確認したい新人は不安を抱えたまま作業を続けてしまう。逆に先輩が細かくマニュアルを用意するタイプだと、勢いで覚えていきたい新人は「もっと自由にやらせてほしい」と感じる。教える側も教わる側も悪気はなく、ただ心地よい学び方の速度が違うだけなのだ。
合わないと感じた時にできること
まず大切なのは、上司の言動を「人格攻撃」として受け取らず、「方向の違い」として一度置き直してみることだ。感情的に受け止めてしまうと関係はこじれやすいが、方向の違いだと捉え直すと、少し距離を置いて眺められるようになる。
たとえば、上司が細かく確認してくることに疲れてしまう場合、それは相手が設計の方向を大切にしているだけかもしれないと考えてみる。逆に、自分が大切にしている継続や共鳴の感覚を、相手にも少しだけ言葉で伝えてみることで、思いのほかすんなり伝わることもある。
実際に、報告のタイミングを変えるだけで空気が変わることもある。上司が結論を先に聞きたいタイプだとわかったら、経過ではなく結論から話す。逆に上司が背景を大事にするタイプだとわかったら、結論の前に一言、状況の説明を添える。ほんの数秒の順番の違いが、相手にとっての「話しやすさ」を大きく左右することがある。
すべてを我慢して合わせる必要はないが、相手の力の向きを知ろうとする姿勢は、関係を少し楽にしてくれる。仕事の相談を持ちかけるタイミングや伝え方を、相手の心地よいペースに寄せてみるだけでも、驚くほど反応が変わることがある。
自分を知ることが関係を変える
上司との違和感を減らす一番の近道は、実は相手を分析することよりも先に、自分自身の動力源を知ることにある。自分が何に触れると力が湧き、何にストレスを感じるのかがわかっていると、上司の言動を必要以上に自分ごととして背負わずに済む。
たとえば自分が愛の動力源を持ち、人との関係性の中で力を得るタイプだとわかっていれば、成果だけを重視する上司の言葉にも「この人は才の方向で動いているだけだ」と少し距離を持って受け止められる。感情的な反応が減ると、その分だけ冷静に対応できる余地が生まれる。
日常の小さな場面でも、自分の動力源に気づいていると景色が変わる。たとえば会議で発言する前に緊張してしまう人が、自分は個の動力源を持ち、自分なりの視点を大事にしたいタイプだと知っていれば、周囲の速いテンポに合わせられない自分を責めずに済む。違和感の原因が「自分の弱さ」ではなく「方向の違い」だとわかるだけで、日々の受け止め方は驚くほど軽くなる。
LifeFlowが大切にしているのは、性格診断のように相手をラベリングすることではなく、自分の動力源をまず知り、そこから相手との違いを眺める視点を持つことだ。上司と合わないと感じたときこそ、自分のコアを見つめ直す良い機会なのかもしれない。
- 上司との「合わない」は性格の優劣ではなく、動力源の違いから生まれることが多い。
- コアの違いは、同じ状況でも心が動くポイントの違いとして表れる。
- フィールド(方向)の違いも、指導スタイルやコミュニケーションのずれとして現れる。
- 相手の言動を「方向の違い」として捉え直すと、関係を楽に見られるようになる。
- まず自分の動力源を知ることが、上司との関係を穏やかに整える第一歩になる。
