育休明けに職場へ戻ったとき、「あれ、前の自分じゃない」と感じたことはないでしょうか。集中できない、要領が悪くなった気がする。その違和感の正体を、少し違う角度から見てみます。
育休明けに感じる「戻れない」という違和感
復帰初日、以前と同じ席に座り、同じパソコンを開いても、なぜか手が動かない。頭では分かっているのに、以前のようにスムーズに仕事が進まない。そんな感覚を抱く人は少なくありません。
たとえば、マーケティング職に復帰したある女性は、資料作成のスピードが落ちたことにショックを受けました。以前は一時間で仕上げていた企画書に、半日かかってしまう。育休前の自分と今の自分を比べて、「私は退化した」と結論づけてしまいそうになったそうです。
別の例では、経理職に復帰した女性が、数字の確認作業に以前の倍近い時間をかけるようになったと言います。ミスが増えたわけではなく、慎重になりすぎているだけ。
これは能力の低下ではなく、育児で強まった「失敗を避けたい」という心の変化の表れだと考えると、少し腑に落ちます。
しかし、この感覚は特別なものではありません。多くの人が育休明けに似た戸惑いを経験しています。それは能力が落ちたからではなく、生活そのものが根本から変わったからです。
睡眠時間、集中できる時間帯、優先すべき事柄。育児という日常が加わったことで、これまで当たり前だった働き方の土台が変わっています。だからこそ、「戻れない」のは自然な反応だと言えます。
それは「元の自分」ではなく力の発揮の仕方がずれているサイン
LifeFlowでは、人には生まれつき備わっている「動力源」があると考えます。何に触れると力が湧くか、というその源は、性格とは違い、生涯を通じてほとんど変わりません。育休を経ても、その源自体が消えたわけではないのです。
変わったのは、その力をどう発揮するかという「方向」の部分です。以前は効率よく物事を進めることに力を発揮していた人が、育児という不規則で予測不能な日々の中では、その発揮の仕方が通用しにくくなります。
たとえば、段取りを組んで物事を進めるのが得意だった人が、赤ちゃんの泣き声一つで予定が崩れる毎日に苦しさを感じるのは、能力の欠落ではありません。得意な発揮の場が、今はまだ見つかっていないだけなのです。
営業で成果を出していた男性は、育休後にスピード重視の交渉が苦手になったと感じました。今は限られた時間の中で信頼を積み重ねる働き方が求められている。営業の力そのものが失われたわけではなく、発揮の仕方が変わっただけなのです。
「元に戻る」という発想そのものが、実は少しずれているのかもしれません。戻るべき場所があるのではなく、今の状況に合った新しい発揮の場を見つけていく、という視点の方が近いのです。
育児の中で気づく、自分が力を出せる瞬間
時間を忘れて夢中になれる状態を、LifeFlowでは「フロー」と呼びます。これは内発的な動機、つまり「やりたいからやっている」という感覚が鍵になります。育児の中にも、実はこのフローの断片が隠れていることがあります。
ある父親は、寝かしつけの絵本の読み方を何度も工夫するうちに、いつの間にか時間を忘れて没頭していたことに気づきました。子どもの反応を見ながら声のトーンを変え、次はどう読めばもっと喜ぶかを考える。この試行錯誤そのものが、実は力が湧く瞬間だったのです。
別の母親は、離乳食のスケジュールや発育記録を細かく整理することに、思いのほか充実感を覚えたと話します。数字や記録を整えることに元々惹かれるタイプだったことを、育児を通じて再発見したのです。
子どもの友達関係を橋渡しするうちに、初対面の親同士をつなぐ喜びに気づいた母親もいます。人と人をつなぐ力が元々あったことに、育児を通じて気づいたのです。こうした発見は、復帰後の新しい役割を考えるヒントにもなります。
こうした瞬間は「母親だから頑張っている」というだけではなく、その人がもともと持っている力の傾向が、育児という新しい舞台でひょっこり顔を出している証拠でもあります。見過ごしがちな瞬間ですが、そこにこそヒントがあります。
戻れないのではなく、まだ発揮の場を見つけていないだけかもしれません。
コアは変わらない、発揮の仕方(フィールド)が変わる
LifeFlowでは、動力源を「コア」、その力をどう発揮するかを「フィールド」と呼びます。フィールドには、革新・共鳴・継続・設計という四つの方向があり、これは経験の中で育っていくものです。育休はまさに、フィールドが揺れやすい時期だと言えます。
たとえば、仕組みを整えて物事を進める力を持つ人が、以前は職場でシステムの設計に力を発揮していたとします。育休中は同じ力を、子どもの生活リズムを整えることや、育児情報を体系的に調べることに使っている場合があります。方向は変わっても、根っこの力は同じところから出ているのです。
新しい企画を次々と生み出すことに力を発揮していた人が、育児中は決まった手順を丁寧に守ることに安心感を覚えることもあります。革新的な力が消えたのではなく、今の生活が求める発揮の方向に、力が一時的に合わせているだけだと考えると理解しやすくなります。
一方で、チームで意見を交わしながら物事を前に進めることに力を発揮していた人が、育児という一対一のコミュニケーションの中で物足りなさを感じることもあります。これは力そのものが弱まったわけではなく、発揮する場が変わったことで一時的にフィットしていないだけです。
この違いに気づけると、「なぜか満たされない」という感覚を、自分を責める材料にせずに済みます。合わない場にいるだけで、力自体は今もそこにあるのです。
職場復帰で起きるギャップの正体
時短勤務で復帰すると、以前担っていた挑戦的な仕事を任されず、ルーティン業務が中心になることがあります。同僚が新しいプロジェクトに取り組む姿を見て、置いていかれるような焦りを感じる人も多いでしょう。
ある会社員は、復帰後に以前より簡単な業務ばかりを任されることに違和感を覚えていました。しかし上司と話す中で、今の勤務時間や体力に合わせた仕事の範囲を一緒に見直したところ、限られた時間でも工夫を発揮できる小さな裁量を得ることができました。
別のケースでは、時短勤務になったことで会議に参加できず、情報から取り残されているように感じた社員がいました。しかし、限られた時間の中で資料を整理して共有する役割を自ら提案したところ、チームからの評価はむしろ高まりました。発揮の場を変えることで、ギャップが強みに転じることもあるのです。
このギャップの正体は、能力の低下ではなく、フィールドの再調整が終わっていないことにあります。以前と同じ量、同じ速度で発揮しようとするから、ギャップが大きく感じられるのです。
大切なのは、今の生活の枠の中で、自分の力がどこに向かえば自然に発揮されるかを探ることです。時間が限られていても、発揮の方向を変えれば、力そのものは十分に働きます。
「戻る」のではなく「今の自分から始める」
育休明けに感じる違和感は、以前の自分に戻れないという焦りとして表れがちです。しかし本当に必要なのは、戻ることではなく、今の状況から新しく発揮の場を組み立てていくことなのかもしれません。
たとえば、フルタイムに戻れないなら、限られた時間の中で最も力が出せる業務に絞ってみる。子どもの成長記録を整理する中で見つけた「整える力」を、仕事の資料作成や情報共有に生かしてみる。小さな一歩からで十分です。
以前はプレゼン資料のデザインに力を注いでいた人が、育休後は子どもの生活記録から家庭のルールを整える役割に自然と力を発揮するようになった例もあります。発揮の場所が変わっても、根っこの「整える力」は変わらず生き続けているのです。
こうした調整を重ねるうえで手がかりになるのが、自分の動力源、つまりコアを知ることです。何に触れると力が湧くのかを理解していれば、環境が変わっても、発揮の方向を組み替えることができます。
育休明けの「戻れない」という感覚は、後退のしるしではなく、自分の力の使い方を見直す機会なのだと捉え直してみると、少し肩の力が抜けるかもしれません。まずは自分のコアを知ることから、次の一歩を考えてみてください。
この記事のまとめ
- 育休明けに「戻れない」と感じるのは能力の低下ではなく、生活の土台が変わったことによる自然な反応。
- 生まれ持った動力源(コア)は変わらないが、力の発揮の仕方(フィールド)は環境に応じて変わる。
- 育児の中の「夢中になれる瞬間」には、その人本来の力の傾向が表れている。
- 職場復帰時のギャップは、フィールドの再調整が済んでいないことが原因である場合が多い。
- 「元に戻る」より「今の自分から発揮の場を組み立てる」ことが、まず自分のコアを知る第一歩になる。