同じ指示を出しているのに、ある部下はすぐ動き、別の部下はなかなか動かない。そんな経験をしたことがあるマネージャーは少なくありません。今日はその背景を、LifeFlowの視点から考えてみます。
「動かない」のではなく「動きたくなる理由が違う」
部下が動いてくれないと感じるとき、多くの上司はまず「やる気がない」「指示が伝わっていない」と考えます。しかし実際には、指示の内容そのものよりも、その人にとって「動く理由」が見えているかどうかが大きく影響していることがあります。人にはそれぞれ、生まれ持った動力源というものがあり、何に触れると力が湧くかが違います。
例えば、ある部下には「この仕事が会社の数字にどう貢献するか」を示すと途端に動き出す一方、別の部下には「このプロジェクトが誰かの役に立つ」という文脈を伝えたほうが響く、というようなことが起こります。指示の中身は同じでも、火のつき方が違うのです。
新入社員の研修を担当する人事担当者からも、似た話を聞くことがあります。同じマニュアルを使って説明しても、ある新人は競争や達成の要素を加えると目を輝かせ、別の新人は「これができるとチームが助かる」という言葉に反応する。教える内容は一つでも、火のつき方は人によってまったく違うのだと実感させられる場面です。
これは能力や意欲の差ではなく、そもそもの動力源の違いによるものだと捉えると、見え方が少し変わってきます。「なぜ動かないのか」を責める前に、「何が動くきっかけになるのか」を探る視点が必要になってきます。動力源というのは性格診断のように後天的に変わるものではなく、生まれ持って備わっているものだとLifeFlowでは考えており、だからこそ一度見つけてしまえば長く使える手がかりになります。
指示の伝え方ひとつで反応が変わる
実際にあった話として、ある製造業のチームリーダーが、新しい業務フローの導入を部下に伝えたときのことがあります。データや効率化の数字を並べて説明したところ、一部のメンバーは目を輝かせて質問を重ねましたが、別のメンバーは終始うなずくだけで、その後もなかなか着手しませんでした。
後日、そのリーダーが「このフローがチームの雰囲気をどう良くするか」という話を加えて伝え直したところ、動かなかったメンバーが急に前向きになったそうです。数字だけでは響かなかった人にも、人とのつながりや安心感という切り口を添えることで火がついた、という例です。
別の例では、IT企業のプロジェクトマネージャーが、締め切りを守ってもらうために「期限を過ぎるとどれだけ損失が出るか」を繰り返し伝えていました。しかし一向に動きが鈍いメンバーがいたため、試しに「あなたの担当部分が仕上がると、次の工程がどれだけスムーズになるか」を伝えてみたところ、驚くほど早く着手してくれたそうです。危機感よりも、誰かの助けになるという実感のほうが力になる人もいるのです。
このように、同じ内容でも伝え方の角度を変えるだけで反応が変わることは珍しくありません。マネージャー側が「自分にとって当たり前の動機づけ」を無意識に押し付けてしまっていないか、一度振り返ってみる価値はあります。伝え方を変えるというのは、迎合することではなく、相手が持っている力の湧く回路に合わせて言葉を選び直すことだと考えると、抵抗なく取り組めるはずです。
方向性の違いにも目を向ける
LifeFlowでは、動力源をどう発揮するかという「方向」も人によって異なると考えます。新しいやり方を試すことに燃える人、周囲と足並みをそろえることに安心を感じる人、コツコツ積み上げることに手応えを感じる人、仕組みを整えることに集中力を発揮する人。こうした方向の違いも、動き方に影響します。
例えば、変化を好む方向性を持つ部下に「決まったやり方を守ってほしい」とだけ伝えると、窮屈さを感じて動きが鈍ることがあります。逆に、安定を大切にする方向性の部下に「とにかく新しいことをどんどん試してほしい」と急かすと、不安が先に立って手が止まってしまうこともあります。
学校の授業でも似た場面が見られます。グループ課題を出したとき、新しいアイデアをどんどん出す子どもがいる一方で、決められた手順を丁寧になぞることに安心感を覚える子どももいます。先生が全員に同じ「もっと自由に発想して」という声かけをすると、後者の子どもはかえって戸惑ってしまうことがあり、方向性に応じた声かけの違いが必要になってきます。
どちらが正しいという話ではなく、それぞれの方向に合った関わり方があるというだけのことです。子育てにも似たところがあり、同じ声かけでもきょうだいで反応が違うのは、こうした方向性の違いが影響している場合があります。方向性は経験の中で育っていくものでもあるため、今は苦手に見える関わり方も、環境次第で少しずつ変化していく余地があります。
夢中になれる状態をつくる難しさ
人が最も力を発揮するのは、時間を忘れて夢中になっている状態だとLifeFlowでは考えます。この状態は「やらされている」からではなく「やりたいから」動いているときに生まれやすく、外からの評価や締め切りだけでは長続きしにくいものです。
部下が動かないと感じる場面の多くは、実はこの内発的な動機にうまく触れられていないだけ、ということがあります。例えば同じ資料作成でも、「言われたからやる」状態と「自分なりの工夫を試したい」状態では、成果物の質も動き出す速さもまったく違ってきます。
趣味の世界を思い浮かべると、この違いはさらに分かりやすくなります。休日に絵を描くのが好きな人は、誰に頼まれなくても何時間でも没頭できますが、同じ絵を仕事として納期付きで依頼されると、急に筆が重くなることがあります。夢中になれる状態というのは、内容そのものよりも「自分の意思で選んでいる感覚」があるかどうかに大きく左右されるのです。
上司としてできることは、指示を細かく管理することよりも、その人が夢中になれる要素を仕事の中に見つけて渡してあげることかもしれません。それは必ずしも大きな裁量である必要はなく、小さな工夫の余地を残すだけでも十分な場合があります。進め方の一部を任せてみる、資料の見せ方を自由にしてもらうといった小さな余白が、思いがけず大きな没頭につながることもあります。
信頼関係の土台としての理解
動力源や方向の違いを理解することは、単なるテクニックではなく、信頼関係の土台になります。部下からすれば「自分がどう動けば力を発揮できるかを、上司がわかろうとしてくれている」と感じられることは、それ自体が安心材料になります。
逆に、いくら正論であっても「なぜこの人はいつも同じことを言うのか」と部下が感じてしまう状態が続くと、指示は届いても心は動かなくなっていきます。これは職場だけでなく、夫婦関係や友人関係でも起こりうることです。
夫婦の間でも、片方が「将来のために貯金しよう」と数字で語りかけ、もう片方が「家族が笑っていられる時間を大事にしたい」という気持ちで動いている場合、噛み合わない会話が続くことがあります。どちらも家族を思っての言葉ですが、力が湧く場所が違うと、同じ話し合いでも温度差が生まれてしまうのです。
大切なのは、相手を変えようとするのではなく、相手の力が自然に湧く場所を一緒に探す姿勢です。これは時間のかかることですが、長い目で見るとチーム全体の動きやすさにつながっていきます。理解には時間がかかっても、一度築かれた信頼はちょっとした行き違いでは崩れにくくなるものです。
まず知るべきは相手より先に自分の動力源
部下の動力源や方向性を理解しようとする前に、実はもうひとつ大事な順番があります。それは、上司自身が自分の動力源を知っておくということです。自分がどんな場面で力が湧き、どんな伝え方を自然にしてしまうのかを知らないと、無意識に自分基準の動機づけを押し付けてしまいがちだからです。
例えば、数字や成果に燃えるタイプの上司は、つい部下にも同じ切り口で語ってしまいます。逆に人との関係性に力が湧くタイプの上司は、数字よりも「みんなのために」という言葉を多用しがちです。どちらも悪いことではありませんが、相手に届いているかどうかは別の話です。
あるベテランマネージャーは、自分が「仕組みを整えることに集中すると力が湧くタイプ」だと知ってから、部下への指示の出し方を意識的に変えたそうです。以前は手順やルールを細かく伝えることが親切だと思っていましたが、自由な発想で動きたい部下には、あえて手順を最小限にして任せる部分を増やしたところ、チーム全体の提案の質が上がったといいます。自分の癖を知ることが、そのまま関わり方の選択肢を広げることにつながった例です。
自分の動力源を知ることは、部下理解の前提であり、遠回りのようで実は一番の近道になります。LifeFlowでは、こうした自分自身の動力源をまず知ることから、関わり方を見直すきっかけを提供しています。
- 部下が動かないと感じる背景には、動機づけの角度のズレがあることが多い
- 同じ指示でも伝え方の切り口を変えるだけで反応が変わることがある
- 変化を好む方向性と安定を好む方向性など、人によって力の発揮のしかたは異なる
- 夢中になれる要素を仕事の中に見つけてあげることが動き出すきっかけになる
- 部下を理解する前に、まず自分自身の動力源を知ることが関わり方を変える第一歩になる
